FLOW&CONNECT
谷敷謙は、木目込みと呼ばれる日本の工芸技法を現代の視点から再解釈・再定義しながら、文化や歴史やひとの身体性、記憶、感情、生きている証を語り継ぐためのモニュメントとしての絵画を制作するアーティストです。会場では彼の世界観とそこに対するアティチュードである「FLOW」そして「CONNECT」をコンセプトにした作品と空間がプレゼンテーションされます。
Date/Access
2022年9月17日 11:00 – 2022年9月30日 19:00
HIRO OKAMOTO, 日本、〒150-0001 東京都渋谷区神宮前3丁目32-2 K's Apartment 103
Introduction
HIRO OKAMOTOにとって3回目の個展となる『FLOW&CONNECT』を開催する谷敷謙は、これまで木目込みと呼ばれる日本固有のテキスタイル技術をペインティングの手法として捉え直し、「存在証明」「語り継ぐこと」をテーマの一つに、今日の国際的なアートシーンにも散見される工芸の技術やコンテクストを取り入れながら制作に取り組むような、多領域をオーバーラップさせる作品を発表してきました。
谷敷の作品を読み解こうとする際、そこでは目に見える要素として木目込みによる工芸性の他、より形而上的なレベルにある「語り継ぎ」という要素が強く訴えかけてきます。本来は友禅などの布地を使っていた木目込みにおいて谷敷は古着を使いますが、そうした素材における「語り継ぎ」も彼の絵画を特徴付ける大きなファクターです。古着とは、つまりかつて誰かが制作をし、また誰かが身に付けていた衣類であり、それは作者やブランドが故意に与えたメッセージや意味を持ち、また身に付けていた誰かの記憶、あるいは匂いなどの身体性が付着した、二重の意味を持ったマテリアルです。彼が古着を用いて絵画をつくる際に気をつけるのは、それらブランドメッセージや所有者の記憶を損なわせず、あたかも宿ったものを移し替えるように継いでいくことだと話します。その「継ぐ」というコンセプトは彼の技法にも通底しており、谷敷がそのテクニックを用いるにあたって気を配っているのは、それをどのように再解釈し、自分自身に、また美術作品へ引用するかだと言います。そもそも木目込みとは江戸期に確立された人形制作の技法であり、現在では雛人形に多く使われる技術として継承されていますが、谷敷はこの雛人形の風習にある「子供の健やかな成長への願い」に見られるような、人間が何かを想い、願うという点を木目込みが持っているコンテクストの一つとして捉え、自身はその先にある「叶った願いの証」「願いというものの証」としてそれを用いるのだと話します。
こうして谷敷は、テキスタイルの絵画を制作することで、木目込みという技術が持っているヒストリカルな価値、またその素材である古着へと所有者や制作者が織り込んでいった精神性を、まるでかつて肖像画が似たそれと役割を持っていたように、何かこの世に存在したものの事実を証明し、未来へと渡し、語り継いでいくような仕事を続けてきました。そしてその根底にあるのが、今回の展示タイトルにもある「FLOW/流」という、彼の世界の捉え方とも言える観念です。例えば、彼は今回の個展会場の1Fでは、世代間のファッション感覚を対比させた作品と空間をプレゼンテーションしますが、彼はこれに関係して「人間が持っているイメージや記憶はあやふやで、不安定で、はかないもの」だと話します。つまり、谷敷が強くこだわる「存在証明」「語り継ぐ」とは、忘却性を余儀なく与えられた人間が住う、常に変化し、流転する社会や時代、歴史のなかに存在する何かに形を与えて残すという、彼なりの実存に対するアティチュードであると言えるでしょう。
一方で、そうした流転する世界観を持つ谷敷にとって重要なもう一つの要素が、今回の展示タイトルのもう片方にある「CONNECT/繋」です。谷敷は幼少期をアメリカの多文化的な環境の中で過ごしましたが、その経験は彼に「他者関係とは、自分のアイデンティティを問い、問われるもの」という通念を与え、それは帰国した際にも彼の中で働き続けますが、そういう精神にあった幼い彼が自国やそこにいる人々との結びつき、文化的なアイデンティティを感じる手段が木目込みという工芸技法だったと話します。つまり谷敷にとって木目込みが持っている意味とは、江戸以来から今日まで続いている伝統技法であると同時に、自分と他者をつなげるためのノンバーバルなコミュニケーションでした。そして今や、それは彼が時代や社会にある何かに対して自身の考え、気持ちを表現する手段ともなりました。彼が取り組んでいる「証明する」「語り継ぐ」は、当然ながら語る者と語られる者の二者関係の営みであり、そこには「繋」という性格が伴います。ところで筆者は、美術作品とはすべからくその作者の視覚的なスラングと捉えるタイプですが、そのような考え方に立つと、谷敷謙というアーティストの作品は、(少なくとも筆者にとっては)流し流されていく世界で数奇にも結ばれた縁を、それがやがて消えてしまうものと分かった上でその痕跡を証明し、語り継ごうとするというどこか切ない、あるいは雄々しい、ひどく人間的な温度を持ったニュアンスの言葉にも思えるのです。
編集者 奥岡新蔵
ー 個展詳細 ー
FLOW&CONNECT
谷敷 謙(Yashiki Ken)
会期:2022.09.17(土) - 09.30(金)
開廊時間:11:00 - 19:00
休廊日:なし
場所:東京都渋谷区神宮前3-32-2 K’s Apartment 103
※御来廊いただく際は、正面玄関インターホンにて「103」をお呼び出しください。
ー Cheerleading by 610 ー
本展では2022年2月からZOZOの枠を超え、あらゆるファッションのチアリーディングを行う「ファッションチアリーダー 610氏」にも全面協力をいただきました。本展示で発表される作品のコンセプトづくりや素材集めなどに610氏のスパイスが加わることで、当時の鼓動を鮮明につむぎとることができました。ファッションの時代性を纏った作品群にもご注目ください。